研究室での実験、論文の執筆、そして将来への不安。 日々の生活の中で、気付かぬうちに心のエントロピー(乱雑さ)は増大していく。 熱力学第二法則が教える通り、放置すれば系は必ず無秩序へと向かうのだ。 では、どうすれば心の秩序を保てるのか?
1. 外部仕事を取り入れる(Work Input)
エントロピーを減少させるには、外部から仕事を加える必要がある。 私にとって、それは「全く異なるコンテキストに身を置く」ことだ。 バイクに乗って強烈な風圧を感じること。パックラフトで冷たい水を浴びること。 物理的な刺激という「仕事」を系(自分)に加えることで、強制的にリフレッシュを図る。 頭だけで考えていては、エントロピーは増大する一方だ。身体性を取り戻すことが鍵となる。
2. ノイズのフィルタリング(Signal-to-Noise Ratio)
現代社会は情報過多だ。SNS、ニュース、他人の評価。 これらは心のS/N比(信号対雑音比)を悪化させる。 定期的に「デジタルデトックス」を行い、ノイズを遮断する。 本当に必要なシグナル(自分の内なる声や、本当に大切な人との対話)だけを抽出する時間を設ける。 静寂な環境こそが、微弱なシグナルを検出するための必須条件だ。
3. 基底状態への帰還(Ground State)
励起状態(興奮やストレス状態)が長く続くと、エネルギーを消耗し、システムは不安定になる。 意図的に基底状態(最もエネルギーが低く安定した状態)に戻る時間を作る必要がある。 それは十分な睡眠であり、瞑想であり、あるいは何もしない時間かもしれない。 「頑張り続けること」が美徳とされることもあるが、物理的に見れば、 適切な緩和時間(Relaxation Time)なしに安定性は保てないのだ。
結論:動的平衡を目指して
完全な静止や不変は、死と同じだ。 生きている限り、エントロピーは増えたり減ったりを繰り返す。 大切なのは、その揺らぎを受け入れつつ、全体として安定した「動的平衡」を保つこと。 物理学の法則は、冷徹な数式だけでなく、生きるためのヒントも与えてくれるのかもしれない。