水面ギリギリの視点から見上げる嵐山の峡谷は、普段見慣れた景色とは全く違う表情を見せてくれる。 パックラフトという小さな船に乗り込み、パドルを握りしめ、保津川の流れに身を委ねる時間。 それは単なるスポーツではなく、自然との対話のような体験だった。
開始地点:亀岡からの出航
スタート地点の亀岡は、霧に包まれていた。 冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、パックラフトを膨らませる。 準備が整い、川へ足を踏み入れた瞬間、日常のスイッチがオフになり、冒険者のモードへと切り替わる。
最初の瀬(急流)を超える時の緊張感。波が船を打ちつけ、水しぶきが顔にかかる。 恐怖と興奮が入り混じったアドレナリン。 うまくパドルを操作し、流れを読み切った時の達成感は何物にも代えがたい。
静寂の峡谷美
激流を抜けると、ふいに静かな瀞場(とろば)が現れる。 ここでは、ただ川のせせらぎと鳥の声だけが響く。 パドルを置き、空を見上げると、切り立った岩壁と紅葉し始めた木々が視界いっぱいに広がる。
「動」と「静」。 物理学で言えば、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの交換のようなものかもしれない。 激しく動いた後の静寂は、心身に深いリラックスをもたらしてくれる。
ゴールへ
約12kmの川下りを終え、嵐山の渡月橋が見えてくる頃には、心地よい疲労感に包まれていた。 観光客で賑わう嵐山に、川からアプローチするという非日常感。 パックラフトを畳んでバックパックに詰め込めば、また一人の旅行者として街に溶け込んでいく。
川の流れは、人生そのものだ。 激しい時もあれば、穏やかな時もある。 大切なのは、流れに逆らうのではなく、その流れをどう読み、どう楽しむかということなのかもしれない。